ベストフレンズ・アニマルソサエティ:動物の命を救う最大級の団体

ベストフレンズ・アニマルソサエティ

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ベストフレンズ・アニマルソサエティ (Best Friends Animal Society)は、アメリカで最も影響力のある動物保護団体の一つで、「Save Them All(すべての命を救う)」という明確なビジョンを掲げています。特に注目すべきは、2025年までにアメリカ全土での動物シェルターにおける殺処分ゼロを目指す大胆な目標です。この記事では、彼らの革新的な取り組みと、動物愛護活動におけるリーダーシップについて詳しく紹介します。

ベストフレンズ・アニマルソサエティとは

ベストフレンズ・アニマルソサエティは1984年に設立された非営利団体で、本部はユタ州カナブの広大な土地(約1,400ヘクタール)にあります。ここは「Best Friends Animal Sanctuary(ベストフレンズ・アニマル・サンクチュアリ)」と呼ばれ、約1,600頭の動物(犬、猫、鳥、ウサギ、馬など)が保護されています。

彼らのミッションは明確です:

  • すべての捨てられたペットに愛ある家を見つけること
  • 殺処分ゼロの社会を実現すること
  • 人と動物の関係を改善し、より共感的な社会を構築すること

主な活動内容

1. 全米規模の「No-Kill 2025」キャンペーン

ベストフレンズが最も力を入れているのが「No-Kill 2025」です。これは2025年までにアメリカ全土のシェルターで救える命をすべて救う(健康で治療可能な動物の殺処分をなくす)という壮大な計画です。

「No-Kill(殺処分ゼロ)」とは、具体的には以下を意味します:

  • 救命率90%以上を達成すること
  • 治療可能な病気や改善可能な行動問題を持つ動物に必要なケアを提供すること
  • 深刻な医学的・行動学的問題を抱え、苦しみから解放する必要がある動物のみ、人道的な安楽死の対象となること

このキャンペーンの5つの柱となる活動:

①全国シェルターネットワークの構築

全米5,500以上のアニマルシェルターとの協力関係を築き、殺処分ゼロに向けた全国的な動きを作り出しています。大小様々なシェルターが参加し、地域の実情に合わせた取り組みを進めています。

②データ分析による問題解決

「シェルターアナリティクス」というデータ分析システムを開発・運用。各シェルターの収容動物データを詳細に分析し、殺処分の主な原因(例:子猫の救命率の低さ、行動問題を持つ犬の増加など)を特定。データに基づいた効果的な対策を立案します。

③「エンベッド・プログラム」による現場支援

ベストフレンズの専門スタッフが実際にシェルターに常駐(エンベッド)して支援を行う特徴的なプログラム。

このプログラムの特徴:

  • 現場での協働:理論だけでなく、スタッフと共に日々の業務に取り組みながら改善点を見出す
  • オーダーメイドの解決策:各シェルターの課題、文化、リソースに合わせた独自の改善計画を作成
  • 持続可能な変革:スタッフのスキルアップとシステム改善を同時に行い、支援終了後も効果が持続する仕組みを構築

④地域密着型の資金支援

「コミュニティ支援助成金」プログラムを通じて、年間約300万ドルの資金を地域の動物保護団体に提供。特に資源の少ない地域や、特定の課題(例:災害時の動物救助体制の整備、低所得地域でのペット医療支援など)に焦点を当てたプロジェクトを優先的に支援しています。

⑤知識と経験の共有

優良事例(ベストプラクティス)を全国で共有するための様々な取り組み:

  • 全国動物福祉カンファレンス(Best Friends National Conference):年に一度、約4,000人の動物保護専門家が集まる全米最大規模の専門会議。3日間にわたり150以上のセッションを開催し、獣医療、行動トレーニング、シェルター運営、募金活動、ボランティア管理など多岐にわたるテーマを扱います。特に「成功事例パネル」では、殺処分率を大幅に減らした地域のリーダーが具体的な戦略を共有。参加費を抑え、奨学金制度も設けることで、小規模団体のスタッフも参加しやすい工夫がなされています。
  • ベストフレンズ・ラーニングライブラリー:オンラインで800以上の実践的リソースを無料提供するデジタルプラットフォーム。ビデオチュートリアル、ウェビナー録画、ハンドブック、テンプレート、ケーススタディなどを含み、月間約15万人が利用しています。特に人気なのは「コミュニティキャットプログラム立ち上げガイド」や「行動問題を持つ犬の更生プロトコル」など、すぐに現場で活用できる実践的コンテンツ。資料はすべてパブリックドメインで、他団体が自由に活用・共有できる形で提供されています。
  • シェルターアカデミープログラム:シェルター運営者向けの包括的な専門研修プログラム。3〜6ヶ月間の長期プログラムと、1〜3日間の集中ワークショップの2種類があります。長期プログラムでは、シェルターのリーダーシップチームがベストフレンズの専門家とともに、自団体の課題を分析し、具体的な改善計画を策定。プログラム修了後も継続的なメンタリングを提供し、計画実行をサポートします。また、「シェルター医療認定プログラム」では、限られた資源でも効果的な医療システムを構築するための専門研修を年間約300人の獣医師に提供しています。
  • 地域リーダー育成プログラム:次世代の動物保護リーダーを育成するための特別プログラム。特に若手リーダーや多様な背景を持つ人材に焦点を当て、リーダーシップスキル、資金調達、地域社会とのエンゲージメントなどを学ぶ機会を提供。卒業生のネットワークは全米にあり、相互支援とメンタリングを通じて継続的な成長を促進しています。
  • 自治体向け専門コンサルティング:公営シェルターを運営する自治体向けに特化したコンサルティングサービス。予算制約の厳しい公営施設でも実現可能な改善策を提案し、政策決定者への効果的な説明方法や、条例改正に関するアドバイスなども提供。税金を使うことへの説明責任を意識した「コスト効率の高い救命戦略」を開発することで、多くの自治体で殺処分削減と予算削減を同時に達成しています。

これらの取り組みにより、参加シェルターの多くで劇的な改善が見られ、全米での殺処分数は着実に減少しています。

2. 革新的なプログラム

Best Friendsは従来の動物保護活動にとどまらない革新的なプログラムを展開しています:

  • コミュニティキャット(地域猫)プログラム:野良猫のTNR(捕獲・不妊手術・返還)を全米40以上の都市で実施し、年間約15万頭の猫の繁殖を防止。特にユタ州ソルトレイクシティでは、このプログラム導入後5年間で野良猫の安楽死処分が84%減少。プログラムには猫の健康チェック、ワクチン接種、マイクロチップ装着も含まれる。
  • ペット救命センター(Lifesaving Centers):ロサンゼルス、ニューヨーク、アトランタなど全米7都市に設置された専門施設。地元シェルターから高リスク(殺処分対象)の動物を優先的に引き取り、医療ケア、行動トレーニング、社会化プログラムを提供し、年間約1万5千頭の動物に新しい家庭を見つけている。特にロサンゼルスセンターでは、行動問題を持つ犬の87%を更生させる実績を持つ。
  • ベストフレンズ・ネットワーク:全米3,500以上の救命パートナー団体との連携ネットワーク。物資支援(年間約120万ドル相当)、専門知識の共有、助成金プログラム(年間約250万ドル)を提供。また「動物間輸送プログラム」を通じて、殺処分率の高い地域から里親希望者の多い地域へ年間約2万頭の動物を移動させている。ネットワークメンバーには無料のオンライン学習プラットフォームも提供。

3. 教育と啓発活動

  • 全国動物福祉カンファレンス:年間約4,000人の動物保護活動家や専門家が参加する全米最大規模のカンファレンスを開催。150以上のセッションとワークショップを通じて最新の救命手法と知識を共有。オンラインでの参加オプションも提供し、アクセシビリティを向上。
  • 専門家育成プログラム:シェルターマネージャー、動物行動学専門家、動物医療スタッフなど、職種別の専門研修を提供。「シェルター医療認定プログラム」では、限られた資源でも効果的な医療ケアを提供するための認定資格を年間約300人の獣医師に付与。
  • デジタルリソースライブラリー:800以上の実践ガイド、ビデオチュートリアル(スキルや技術、操作方法などをわかりやすく解説した動画)、ケーススタディを無料で公開。月間約15万人のユーザーがアクセスし、特に「行動問題を持つ犬の更生ガイド」は年間10万回以上ダウンロードされる人気コンテンツに。
  • コミュニティ教育イニシアチブ:子供向けの「動物愛護教育キット」を全米1,200以上の学校に提供。また、高齢者施設など約500のコミュニティセンターで「セラピードッグプログラム」を実施し、動物と人の絆の大切さを伝える活動を展開。

成果と社会的影響

ベストフレンズ・アニマルソサエティの活動は、具体的な成果として現れています:

  • 全国的な救命率の向上:2016年から2022年の間に、全米のシェルターでの殺処分数が約47%減少(年間約71万頭から約37.8万頭に)。特に猫の救命率が大幅に向上し、59%の減少を達成。
  • モデル都市の成功事例:Best Friendsが集中的に支援する「モデル都市プログラム」参加都市(ロサンゼルス、ヒューストン、フェニックスなど)では、平均で60%以上の殺処分減少を達成。特にテキサス州オースティンは2011年に全米初の大都市としてNo-Kill(救命率90%以上)を達成。
  • 2022年度の救命実績:同団体が直接運営する施設およびパートナー団体を通じて、2022年だけで約11万頭の犬猫の命を救出。このうち約3.8万頭は医療的または行動的な特別ケアが必要な「特別支援動物」で、通常のシェルターでは救命が難しいケース。
  • 政策への影響力:これまでに27の州で、コミュニティキャット(地域猫)プログラムの法的保護や、シェルター透明性に関する法律など、計53の動物福祉法案の成立に貢献。
  • 公衆意識の変革:ベストフレンズの調査によると、2016年から2022年の間に、保護犬・保護猫の認知度が63%から84%に上昇。また、ペット購入者のうち「次回は保護施設から迎えたい」と答えた人の割合が46%から73%に増加。

彼らの活動は数字だけでなく、社会の動物に対する意識と行動の変化にも大きく貢献しています。

日本での取り組みへの示唆

日本でも依然として年間約2.8万頭(環境省2022年度統計)の犬猫が殺処分されています。この数字は10年前と比較すると大幅に減少しているものの、さらなる改善の余地があります。ベストフレンズのモデルから、日本の動物保護活動に応用できる具体的な示唆には以下のようなものがあります:

1. データ駆動型のアプローチ

  • 地域別の課題分析:ベストフレンズの「シェルターアナリティクス」のように、都道府県や自治体ごとの殺処分の原因を詳細に分析し、地域特有の課題(例:関西地方では多頭飼育崩壊、東北地方では野良猫問題など)に応じた解決策を立案
  • 効果測定の徹底:介入前後のデータを系統的に収集・分析し、どの取り組みが最も効果的かを科学的に検証。感情論ではなく、数字で効果を示すことで行政や支援者の理解を得やすくなる
  • オープンデータの推進:自治体ごとの収容・譲渡・殺処分データを標準化し、一般にアクセスしやすい形で公開。ベストフレンズが実施している「シェルターデータダッシュボード」のような取り組みは、日本の動物行政の透明性向上にも応用可能

2. コミュニティ参加型の取り組み

  • 町内会・自治会との連携:日本の強固な地域コミュニティ構造を活かし、町内会・自治会レベルでの地域猫活動や見守りネットワークを構築。高齢者の多頭飼育問題の早期発見など、日本特有の課題に対応
  • 企業CSRの活用:ベストフレンズが実施している企業パートナーシッププログラムを参考に、日本企業のCSR活動と動物保護活動を結びつける。例えば、社員ボランティア制度や、保護犬・猫との触れ合いによる社員のメンタルヘルス支援など
  • 教育機関との協働:動物愛護教育を学校カリキュラムに組み込む取り組みを推進。特に日本では、「命の教育」として、道徳教育や総合的な学習の時間を活用できる可能性がある

3. 革新的なプログラム開発

  • シニア向けプログラム:高齢化社会の日本において、シニア層をターゲットにした「シニアと保護犬・猫のマッチングプログラム」などは、お互いの孤独解消にもつながる可能性がある
  • 住宅環境への対応:集合住宅が多い日本の住環境に合わせた「ペット共生マンション認証制度」や「保証人システム」など、飼い主の住宅問題を解決するプログラム
  • テクノロジー活用:日本の高度なテクノロジーを活かした保護活動(例:AIによる里親マッチングシステム、IoTを活用した地域猫モニタリングなど)の開発と普及

日本とアメリカでは社会構造や文化が異なるため、ベストフレンズのモデルをそのまま適用するのではなく、日本の状況に合わせてカスタマイズすることが重要です。しかし、「データに基づくアプローチ」「コミュニティ全体の参加」「革新的な発想」という基本理念は、どのような文化圏でも有効であり、日本の動物保護活動の発展に大いに貢献する可能性があります。

まとめ

ベストフレンズ・アニマルソサエティ (Best Friends Animal Society) は、「Save Them All(すべての命を救う)」という明確なビジョンのもと、具体的な行動と科学的アプローチで社会変革を実現している団体です。明るくポジティブなアプローチと、データに基づいた戦略と地域コミュニティの力を最大限に活用することで、多くの地域で殺処分数の劇的な減少を実現してきました。

彼らの活動が示す最も重要なメッセージは、「殺処分ゼロは夢物語ではなく、実現可能な目標である」ということです。そして、その実現には動物保護団体だけでなく、行政、企業、教育機関、そして一般市民を含む社会全体の協力と意識改革が必要です。

日本でも動物保護活動を進める上で、ベストフレンズが成功を収めた3つの方法が役立ちます:

  1. 数字で考える:感情だけでなく、データを集めて問題の本当の原因を見つける
  2. みんなで取り組む:専門家だけでなく、地域の人々や企業も巻き込んで一緒に活動する
  3. 新しい方法を試す:「いつもの方法」にこだわらず、新しいアイデアを積極的に取り入れる

日本とアメリカは文化も習慣も違いますが、この3つの考え方は世界中どこでも通用します。ベストフレンズの成功例を参考にしながら、日本の状況に合った形で取り入れることで、「助けられる動物はすべて救う」という目標に、日本社会も一歩ずつ近づいていけるはずです。

ベストフレンズの活動は、単に動物を救うだけではありません。彼らの取り組みは、動物を大切にすることが、人々の心も豊かにし、社会全体をより優しく思いやりのあるものへと変えていく力を持っています。動物を守る活動は、最終的に私たち人間自身の幸せにもつながっているのです。

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