戦争の後に続くもう一つの戦い
戦争から帰還したアメリカ兵たち。
彼らは何十人もの命を奪い、見えない爆発物に怯えながら緊張の連続だった。
戦場を生き延びたとしても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、抑えきれない怒り、深い悲しみ、鬱などの症状と闘うことになる。
2010年のデータによると、戦場で亡くなる兵士よりも、帰還後に自死で亡くなる兵士の数のほうが多いことが判明した。それも2年連続で。
受刑者と犬が互いに救い合うプログラム
シェルターの犬と刑務所の受刑者をつなぐ訓練
アメリカには、シェルターや保健所から引き出された犬たちを刑務所に連れていき、受刑者が”サービスドッグ”として訓練するプログラムがある。
受刑者たちはこのプログラムを通じて、犬の訓練方法を学びながら、「命を預かる責任」を知り、愛すること、そして愛されることを学ぶ。
彼らの多くもまた、幼少期に愛を知らずに育ったり、虐待を受けた経験を持っている。
受刑者の過去に目を向けることで生まれる気づき
私自身が犬たちから学んだのは、「相手を慈しむ心」。
“受刑者”という言葉でひとくくりにするのではなく、一人ひとりに心を向けると、彼らの過去が見えてくる。
もちろん、犯した罪の責任は消えない。
しかし、「ただ犯罪者だから」と彼らを裁くだけでなく、思いやりを持って見ることもできるのではないか。
それは、受刑者だけでなく、私たちが嫌いな人、恨んでいる人、間違ったことをしていると思う人にも当てはまる。
受刑者と犬、そして社会全体にとっての恩恵
純粋な絆が生まれる瞬間
受刑者から訓練を受け、彼らに愛される犬たちの姿を見ていると、言葉では説明できないほどの純粋さを感じる。
刑務所でのサービスドッグ・プログラムは、合理的なだけでなく、関わるすべての人と犬に恩恵をもたらす。
更生への道と、新しいキャリアのチャンス
サービスドッグのトレーニングを担当した受刑者たちは、
- 無期懲役の受刑者は「このプログラムと犬たちのおかげで救われている」と語り、
- 刑期を終えて社会復帰する受刑者は、プロのドッグトレーナーとしてのキャリアを手に入れることができる。
このプログラムを修了した元受刑者の再犯率はほぼゼロ。
つまり、社会全体がその恩恵を受けることになる。
帰還兵士を支えるサービスドッグの存在
PTSDに苦しむ元兵士たち
戦争で人を殺した自分を責め続ける元兵士。
戦場という地獄の中で、感情を押し殺して生きてきた彼らは、日常生活に戻っても怒りを抑えられず、過去の恐怖が何度も脳裏をよぎる。
そんな彼らのもとに、訓練を終えたサービスドッグたちがやってくる。
犬がともす希望の光
サービスドッグは、元兵士たちにとって希望の光となる。
ただそばにいるだけで、「自分の存在が許される」「そのままの自分を受け入れてくれる」ように感じるのかもしれない。
多くの元兵士がこう言う。
「この犬が僕(私)のところに来なかったら、今頃僕(私は)生きてはいなかったと思う。」
その傍らには、かつてシェルターや保健所で「行き場のなかった犬たち」が寄り添っている──。
シェルターの犬たちが変える未来
こうしたプログラムによって、元兵士、受刑者、そしてシェルターの犬たちが、それぞれの人生を再び歩み始めることができる。
戦争は、奪うだけで得るものは何もない。
しかし、戦争によって傷ついた兵士や、見捨てられた犬たちが、お互いを癒やし合うことで、新たな未来を築くことができるのかもしれない。

