犬を愛する心は誰にも負けないけれど、犬が言う事を聞いてくれない・・・大好きな犬の役に立つ様なボランティアがしたいけど、経験がなくて自信がない、または単に犬の事をもっと知りたい。皆さんが大好きな犬達と幸せな暮らしが出来るように、アメリカにて犬のプロフェッショナルとしてご活躍の寺口麻穂さんとタッグを組み、「犬を知る!」と題した連載を始めることになりました。1週間に1度の割合で更新し、犬の心理学&行動学やしつけ、食事やケア、ホリスティック療法など幅広ーくカバーしてみたいと思っています。 〜Big Tree for Animals
──Big Tree:麻穂さん、前回は怯える犬に対しての対応の方法についてお話して頂きましたが、怯える犬はがたがたと震えたり、見ていて大体分かると思うんですけれど、犬達はそうなるまでにもっと小さなサインを出したりしていると思うんです。今回はそんな「犬のボディーランゲージ」について少し詳しく学びたいと思っています。まず最初に、人が間違って捉えやすい犬のボディーランゲージとはどんなものでしょうか?
麻穂:ちまたで一番誤解されているのが「犬の尻尾」ではないでしょうか?「尻尾を振っている=フレンドリー=近寄っても触っても大丈夫」、また他の犬へ送っている場合だと「あんなに尻尾を振ってるから大好きで、一緒に遊びたい証拠」という風に信じている人が多いと思いますが、これは間違った理解で、犬の尻尾は犬が「全ての感情(喜怒哀楽)」を表現する部分です。
犬は尻尾を使って巧みに自分の感情の状態を周りに知らせています。例えば、みなさんもご存知だと思いますが、尻尾が足の間に入り込んでるのは、犬が恐怖や不安に襲われている時に出しているストレスサインですね。そんな場合に、せっかちになって犬を追い込むような行動をとると余計に殻に閉じこもるか、防御で襲ってくる可能性もあります。また、犬は興奮状態の時にものすごい勢いで尻尾を振ります。それは、悪い興奮状態の時も、いい興奮状態の時もなのですが、基本として興奮状態の時の犬には構わない。落ち着くまで放っておくこと。またはストップする。人間が犬の興奮状態を奨励すると、いいことをしていると思い、その良くない状態・行動がエスカレートして、危険な行動に繋がる可能性もあります。
▼ 興奮状態(アグレッシブ)なボディーランゲージ
この状態の犬同士を交流させると喧嘩になる前兆。
▼ リラックスしたボディーランゲージ
──Big Tree:例えば自分の犬が他の犬や人と出会った時に、上に表記してあるような「興奮状態(アグレッシブ)」のボディーランゲージをしているとします。その時の対処法を教えて下さい。(注:当サイトでは、全ての状況に対応するアドバイスをする事はできません、以下のアドバイスは一般的な対処法として理解しておいて下さい。)
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麻穂:時すでに遅し・・・。冗談ですけど。でも、この状態から次の状態に入るのは本当に一瞬で、次の状態(興奮・攻撃状態)に入ってしまうと、飼い主やハンドラーの言うことは全く耳にはいってこず、冷静な状態に戻すのが難しいので、この状態に入る前にこちらが対処することですね。上のような「興奮状態(アグレッシブ)」な状態であれば、犬にこれ以上刺激を与えないようにします。
例えば:
- リードをぎゅーっと引っ張ったままの状態で緊張感を与えない、
- おろおろしない、
- 大声を出したり叫んだりして感情的にならない。
ハンドラーは、冷静に堂々とした態度を保ち、リードには無駄な力をこめず、犬同士が直接向かい合ったり、コンタクトしないで済むようにその場から立ち去るなどの方法を取り、状況がそれ以上エスカレート避けること。出来れば、「興奮状態(アグレッシブ)」に入る前にこちらが犬の変化を察し、先手を打って;
- 方向転換する、
- 他のものに注目させて注意をターゲットに向けさせない(ディセンサタイジング法)
などして犬が「興奮状態(アグレッシブ)」にならないようにします。
──Big Tree:次は犬のストレスサインですよね。これにはどんなサインがありますか?
麻穂:犬がよくするストレスサインには以下のようなものがあります;
- じっとできない。集中できない
- 身体を掻きむしったり、同じ箇所をずっと噛んだりする、
- 下痢、
- 急激にフケが出る、
- 運動後でも、気温が暑いわけでもないのにはっはと舌を出して呼吸する、
- 吠えたり、くんくんと鼻を鳴らしたりする、
- 自分のプライベートなところを確認する、
- 身体全体の筋肉を硬直させる、
- 震える、
- 皮膚の病気が出るなどがあります。
──Big Tree:なるほど・・・それでは実際に犬のストレスサインを確認したら、どうすればいいんでしょう?どうしてストレスを感じているのか分かる場合は、その場所から離した所に連れて行ってあげるとか?
麻穂:ストレスも、その時「一瞬だけのストレス」と「長期的ストレス(下痢、皮膚の病気、など)」とがあるのでケース・バイ・ケースで対処法は変わってくると思いますが、前回もお話したように恐怖や不安からくるストレスで殻に閉じこもっている犬などには、むやみやたらに声をかけすぎず、やたらと触ったりせずに、少し距離をおいてあげてください。また犬に注目しすぎないように、こちらはあくまでリラックスしていましょう。
──Big Tree:あと、その時の人間の態度も大切ですよね。あんまり「あらー怖いのねー、可哀想に〜。」なんてすぐに壊れるガラスを扱うみたいな感覚でいるよりも、そういった「感情的」な部分はなるべく切り捨てて対応してあげるとか・・・。
麻穂:The Dog Whispererでお馴染みのシーザーさんも、「犬が我々人間から一番必要としているのは同情ではなく、リーダーシップなのです。」と言ってますよね。
──Big Tree:ストレスサインの他にも「カーミングシグナル」っていうのもありますよね。ちなみにカーミングシグナルの「カーミング」とは英語で「Calming=落ち着く」という意味で、犬が自分自身を落ち着かせたり、相手に敵意がない事を知らせる為に出すサインという事ですよね。犬達が常に出しているそういったサインに気づかないでいると、彼らをものすごく怯えさせる状況に追い込んだり、下手すると自己防衛の為に人を噛んだりする程追いつめる事になってしまったり・・・。そうならない為にもまずは犬の出す「カーミングシグナル」について教えて下さいますか?どんなシグナルがあるんですか?そしてその意味は?
麻穂:犬をじっくり観察してみると、本当にたくさんのカーミングシグナルを出して周りとコミュニケーションしたり、自分自身に対して使っているのがわかると思います。その中できっとみなさんもよく見るのが「あくび」だと思います。犬は眠い時にあくびをするのではなく、自分自身や周りの犬や人間を落ち着かせたい時にあくびをします。例えば獣医さんの診察中に、生あくびのようなものをして顔を横に振る行動を見た飼い主さんは多いのではないでしょうか?あれは緊張でかちこちになった自分自身を落ち着かせるためにするシグナルです。また、こちらがあまりにハイパー(興奮状態)になっていたり、他の人間と言い争いをしたりすると、犬はあくびをして「ちょっと落ち着いて~」と知らせてきます。『犬の振りみて我振り直せ』ですね(笑)わたしも一度超ハイパーになっていた人に生あくび連発で「ちょっと落ち着いてください~」とやってみましたが残念ながら効果ゼロでした(悲)。他には頭を横に向ける、目をしばしばさせて相手を凝視しない(ソフトアイ)、鼻を舌でぺロッとなめる、地面などの臭いを嗅ぐ、片方の前足を上げフリーズするなどがあります。
スポンサードリンク──Big Tree:ほんとにいろんなボディーランゲージがあるんですねー。
麻穂:犬を観察すればするほど犬が出しているサインが見えてくると思いますので、出来るだけ犬が発しているサインを意識して観察し、何を訴えているのか理解するようにしてください。犬はこちらが彼らのサインを理解してていることに気がつくと、どんどんリラックスしていきます。後は環境作りですね。狼の子孫の犬たちには静かに一人でゆっくり出来る洞窟のような場が必要です。そんな環境を提供してあげること。リラックスできる音楽も大変効果があります。聞いたところによると、音楽家ではモーツアルトの作品、楽器ではピアノ、そして一つの楽器だけで単調に演奏された音楽が犬たちを一番リラックスさせるとのこと。また人間と一緒でヨガ(DOGA)も大変効果があると聞いています(まだ試したことないですが・・・。)結局はいつもここに戻ってしまいますが、人間がリラックスしていると犬もリラックスしやすくなる。人間がてんぱってると犬はリラックスできません。
──Big Tree:うちも家でよくリラックする音楽はかけてまーす。ホントにリラックスしてますよ。
麻穂:絶対効果ありますよね。ところで、ストレス・サインとカーミング・シグナルについてとってもいい本があるので紹介させてください。日本の方には残念ながら英語の本なのですが…。写真が一杯で読みやすく、とても勉強になりますよ。Truid Rugaas著の『On Talking Terms with Dogs: Calming Signals』という本で、Dogwise Publishingという出版社から出ています。
──Big Tree:麻穂さん、どうもありがとうございました!日本にも犬のボディーランゲージの本が沢山でていると思います。後はそれぞれの飼い主さんが勉強する事ですよね。私も愛犬の為に自分で学び続けたいと思います。
寺口麻穂
ドギープロジェクト、オーナー、米国ニュージャージー州のシェルターボランティア、アダプション・カウンセラーなど犬のしつけ・訓練に関するスキル、犬とのコミュニケーション法、犬の心理学などの知識を備え、長年の経験を積んだ犬のスペシャリスト。アメリカで発行されている日本人向けの情報誌、U.S. FrontLineにて「ドギーパラダイス!」というコラムも連載中。
URL: www.doggieproject.com
Blog: 犬のこころ
Facebook: ドギーパラダイス!
プロフィール:1988年に大阪を出て、「英語」と「世界」を学ぶためサンフランシスコ・ベイ・エリアに上陸。大学・大学院で文化人類学を研究した後、1999年に愛車で大陸横断し、東海岸に移住。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに「子供の頃からの夢を現実に!」と犬のプロになる決意をし、人間の専門家から犬の専門家にキャリアチェンジ。地元のアニマル・シェルターでボランティアをしながら、個人でビジネスも立ち上げ、犬と飼い主がより充実した生活を送れるようその指導に日々励んでいる。11年前にシェルターから酷い虐待を受け捨てられたジュリエットという女の子のピットブルをアダプトする。この11年間、「運命共同体」としてお互いなくてはならない存在になる。2011年7月25日、沢山愛されたジュリエットは推定13歳で虹の橋へ。2012年2月シェルターにて生後5ヶ月のピットブルテリア、ノア(♂)を譲渡し、共同生活を始める。