【米国発】連載コラボ企画!第9回目:トラウマがあると(思われる)犬を譲渡する際の心構え

──Big Tree:保健所や動物愛護及びレスキュー団体さんから新しく犬を家族として迎え入れる事になりました。一般的に見ると「可哀想な状況」から来た「可哀想な」子達という風に思われるかもしれません。私たち人間が持つ「同情する心」。これは非常に素晴らしい感情のひとつなのですが、相手が犬の場合、その表現の仕方も変えて行く必要があるといわれています。同情の心を「理解」に変えてみる事・・・。私も2匹目としてシェルターから我が家にきた愛犬に「人間の気持ちで同情」して失敗した飼い主の一人ですので、そうなる気持ちはとてもよく分かります。まほさん、まず根本的な所から聞かせて下さい、保健所や愛護団体さんから引き取った犬達の全てにトラウマがあると考えてよいのでしょうか?

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──まほ:だめですね(笑)実際にシェルターを訪れて犬たちと時間を過ごしたことがないと、想像するのが難しいかもしれませんが、シェルターにいる犬たちの多くは「天真爛漫」で「遊んで~!」光線を送ってくるような社会性のある、ポジティブな構えの犬たちです。よく動物愛護団体の広告などを見ると、シェルターやレスキュー団体に保護されている犬たちは何か全部「怯えた目」で人間を見上げていたり、ぶるぶる震えていたり、またがりがりにやせ細って衰弱していたり、身体が傷だらけになっていたりに映っています。

実際に証拠がない限り勝手にストーリーを作って、「〜だから〜なんだ」と持って行ってはいけないということは、アメリカのシェルターでも何度も説明を受けています。

もちろんそんな状態の犬たちも来ることは来ますが、「全部」というわけでは全くないですし、普通のというか、どこかで飼われていて事情あって捨てられたけど、人間慣れしている犬たちの方が断然多いです。それにハンドシャイ(人間が手を上げたり、物をもったらびくついて態勢を低くする=以前に叩かれていた可能性大)な犬たちでも、危険がないと判断するとすぐにこころを開いてくる子がいっぱいです。シェルターや愛護団体の犬たちは全てトラウマを持っていて、どこか哀れでみじめというのはかなり神話的な誤解だと思います。犬の新しい環境への順応性とか回復性は人間が思っているよりうんと早く、またその能力に優れていることにきっと驚くと思います。

──Big Tree:以前、どこかで『その犬がシャイだからといって過去に「虐待された」「トラウマがある」』と決めつけてはいけない。と書かれてあるのを読みました。それを読んだ時に、あー、もしかしたら、虐待された、されていない、という過去に縛られるよりも、目の前にいるこの犬の現在の状況に冷静に対応できる「知識」を持つ事を考えた方がいいのかなーと思ったんです。まほさんはアメリカのシェルターで、収容されてくる沢山の犬に出会って来ていると思います。その中にはもちろん、実際にひどい虐待にあってきた子も・・・まほさんの一頭一頭に対する心の変化、動き、気をつけている事等を教えて頂けますか?

──まほ:そうそう。傷だらけだからと言って闘犬の「ベイト(つり餌)」と決めつけてはいけない、ガリガリに痩せているからとか、人間から逃げるから言って飼い主が虐待してると決め付けてはいけない。実際に証拠がない限り勝手にストーリーを作って、「〜だから〜なんだ」と持って行ってはいけないということは、アメリカのシェルターでも何度も説明を受けています。その「勝手な設定」によって人間がその犬の対処の仕方を間違ってしまう危険があるからです。バックグランド(過去の状況)の情報にこだわるより、今目の前に居る犬が示してるボディーランゲージだとか行動だとかをしっかり客観視して、また犬種独特の性質もありますし、その一つ一つに取り組むほうが問題解決は早いと思います。もちろんバックグラウンドの情報も参考になるし、頭に入れておくのは良いと思いますが、そこに固執したり、そこから話を誇張するのはその犬の将来にマイナスに影響することになりかねません。

──Big Tree:実際に心に傷をおった動物達が家に来たとします。第一日目から心がける事、やるべき事、やるべきではない事について教えて下さい。

私の周りは彼女の過去のことを大変哀れに受け止め、ひどく同情してくれていましたが、わたしの中では「うちに来たんだからもう何も心配ないよ。」という気持ちの方がとても大きかったです。

──まほ:うちの愛犬ジュリエットは見つけられた時がりがりに痩せていて(理想体重の半分)、身体中傷だらけで、ナイフで切られた大きな傷も二箇所、タバコを押し付けられた傷も二箇所。またハートワーム(フィラリア)にもかかっていました。そんな姿でポイ捨てされ、とぼとぼハイウェー(高速)を歩いていました。そんな話を事前には聞いていましたが、アダプト(譲渡)して家に連れて帰って来たその日から、自然にそんなことは頭の隅の隅に押しやっていました。それよりも、これからの彼女との新生活のこと、立派な飼い主になることだけに必死でした。ある意味ナイーブだったから自然にそうなれたのだと思いますし、また、「忙しい生活の中で犬を飼う」ということ自体に集中して一生懸命だったので、ジュリエットの過去のことを真剣に考え出したのは随分経ってからのことです。意識してしたことではないのですが、それが功を奏して、ジュリエットとの関係設立にはとても良い影響になりました。

アダプトしてしばらく、私の周りは彼女の過去のことを大変哀れに受け止め、ひどく同情してくれていましたが、わたしの中では「うちに来たんだからもう何も心配ないよ。」という気持ちの方がとても大きかったです。落ち着いてからは、ジュリエットの不幸な過去の話を「上手く」利用して、機会ある度に人間の酷い行動と犬の回復性・セカンドチャンスへの順応性を説明するのに使っていました。

心に傷をおった犬がうちに来た際、「可哀相、可哀相」と哀れむよりも、ここからの新生活をどうしていくか、「今」と「先」に焦点を置くべきだと思います。また哀れんで可哀相な過去があるんだから、なんでもやりたいように…とやってしまうのは、関係作りとしつけに悪影響を及ぼし、問題行動に発展する可能性もあるので気をつけましょう。

トラウマの度合いと症状にもよりますが、そんな犬をアダプトしたら、当初はその犬が居ないと思うくらい犬に構わず、普段の生活パターンで行動するのが犬にとっても早く新しい生活に順応する助けになると思います。家族揃ってあれやこれや構いすぎると、犬にも余計なストレスになります。また、すぐに新しいもの、場所、人など一気に紹介するのではなく、時間をかけてゆっくりと色んなものを紹介していくこと。特に臆病でセンシティブな子には時間をかけて色んなものを体験させるべきです。

人間に臆病な犬は往々にして他の犬とものすごく上手くやれることが多いので、そんな子には近所のドッグフレンドリーなわんちゃんとの触れあいの機会をたくさん与えてあげると良いと思います。また、その友達になった犬の飼い主さんから人間の紹介をしていくのが人間と仲良くなっていく方法としてよいでしょう。人間に臆病な犬に人を紹介する際も、犬のことは構わずに居ないと思って自然に振舞ってもらうようにアドバイスしましょう。

──Big Tree:可哀想だと思い、かまいすぎたり、哀れみの目で接する事への犬の影響はどんなものでしょう?

──まほ:その問題の殻から抜け出すのを阻止しているようなもので、もっと深みにはめてしまう可能性もあります。犬が次のステップに進むのに悪影響になりかねないので、その気持ちは「箱」に入れて、こころの隅に保存しておくのが良いと思います。そのエネルギーと時間を犬に好影響になるものに使ってほしいですし、また犬は人間のエネルギーを吸い取って自分の行動に影響を与えるので(特に飼い主の)、ネガティブなエネルギーやストレスを発散させないで、飼い主さんがポジティブで明るいエネルギーを発散させ、犬に吸い取ってもらえるようにすることだと思います。それから大切でなのは常に冷静でいることです。プラスの感情でもあまり感情を激しく出しすぎるのも逆効果になります。落ち着いたエネルギー(禅のような)で接してあげることを心がけましょう。人間同士でもそうですよね。感情の浮き沈みが激しいのは疲れますよね。

──Big Tree:「あー、可哀想だ。」と思ってしまった時、まほさんならどのようにして気持ちの切り替えをしますか?

──まほ:「この犬のために今何が一番必要か」を客観的に、犬の視点で考えて、そちらに焦点を置きますね。可哀相と思う気持ちは尊いです。その気持ちがあるから犬を救いたいし、救えるのだと思います。でも、そこに固執していては犬は前に進めないので、犬が前に進むために何が必要かを犬の視点から見つけ出し、必要なことをひとつひとつ冷静にこなしていくと。それが大切だと思います。

まとめ

【トラウマがある犬が家にやって来た時に心がける事】  いつも通りの生活。

寺口麻穂さんと愛犬のジュリエット

寺口麻穂

ドギープロジェクト、オーナー、米国ニュージャージー州のシェルターボランティア、アダプション・カウンセラーなど犬のしつけ・訓練に関するスキル、犬とのコミュニケーション法、犬の心理学などの知識を備え、長年の経験を積んだ犬のスペシャリスト。アメリカで発行されている日本人向けの情報誌、U.S. FrontLineにて「ドギーパラダイス!」というコラムも連載中。 URL: www.doggieproject.com ブログ:犬のこころ」 Blog (English): Doggie Paradise! Facebook:ドギーパラダイス!

プロフィール:

1988年に大阪を出て、「英語」と「世界」を学ぶためサンフランシスコ・ベイ・エリアに上陸。大学・大学院で文化人類学を研究した後、1999年に愛車で大陸横断し、東海岸に移住。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに「子供の頃からの夢を現実に!」と犬のプロになる決意をし、人間の専門家から犬の専門家にキャリアチェンジ。地元のアニマル・シェルターでボランティアをしながら、個人でビジネスも立ち上げ、犬と飼い主がより充実した生活を送れるようその指導に日々励んでいる。11年前にシェルターから酷い虐待を受け捨てられたジュリエットという女の子のピットブルをアダプトする。この11年間、「運命共同体」としてお互いなくてはならない存在になる。2011年7月25日、沢山愛されたジュリエットは推定13歳で虹の橋へ。2012年2月シェルターにて生後5ヶ月のピットブルテリア、ノア(♂)を譲渡し、共同生活を始める。

【免責!】

こちらに記載しているアドバイスはあくまでも一般的状況においての事柄です。各家庭における犬の問題行動にはそれぞれの環境や状況などが関係してきますので、寺口麻穂及びBig Tree for Animalsはそれらのひとつひとつにお答えする事はできません。又両者はこれらの記事の閲覧によって生じたいかなる損害にも責任を負いかねます。飼っている犬の問題行動への解決にはプロのトレーナーさんにかかる事をおすすめします。

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